Dragonfly
調香師は Juan Perez。
最初の一瞬、アルコールと共にフローラルが広がりますが、すぐに湿度に包まれて花畑が遠のくように感じます。そこからは水分を思わせる香りが現れます。アルデハイドのためか暖かさを感じ、このため雨雲や曇天のイメージではなく、天気の良い日に朝露の降りた草花を見る印象です。
最初の20分ぐらいは水の香りが勝っているのですが、次第にチェリーブロッサムやアイリスが立ち始めます。この1時間ほどのあいだは、鼻を近づけるたびにフローラルだったり、ウォーターだったり、グリーンだったりと、香りが揺れるのを楽しむことができます。
そこからさらにウォーターノートが引いていき、パウダリーなフローラルに落ち着きます。ヘリオトロープ、アイリス、アルデハイドに加えて、ライスもこのふんわり感にひと役買っています。パウダリーフローラルという香りの傾向からいうとやはり女性向けかなと思います。
この水分の香りの移り変わりは、夜明けの花畑で、水滴をつけた草花に日が射し始めて、少しづつ朝露が飛んでいく過程を映しているかのようです。トンボは水辺にいることが多いので、この花畑の近くには池や川があるのでしょう。
Hyrax
調香師は Sven Pritzkoleit。
パッケージのイラストがとてもかわいいです。「ハイラックス」で画像を検索すると車ばかり出てきますが、「hyrax」で検索すればかわいい実物の写真を見ることができます。今ではアフリカの中南部にしかいないということで、それで後ろのお面やハイラックスの着ている服がアフリカンモチーフなんですね。
ハイラックスから採れる香料 Hyraceum は化石化した排泄物なので、ムスクやシベットと違って動物愛護の観点からも問題なく採取できる天然香料。そして香りはムスク、カストリウム、シベット、タバコ、アガーウッドの要素をもつ複雑な香りとのことです。
この香水は最初にスパイスが香り、すぐ後からかなりのアニマリックさが出てきます。乾いた埃っぽい岩山のくぼみに住んでいる野生動物の巣に頭を突っ込んだらこんな感じかもしれません。ストレートな言い方をすると、確かに排泄物由来の香料だなと思わせる力強さがあって、パッケージとは裏腹に全くコミカライズされていない挑戦的な香りに驚きます。
アニマリックな香料でよく見かけるのは、もともとは大変な悪臭だが薄めると甘美な香りになる、という説明です。僕の印象ではありますが、ハイラックスは、それをあまり薄めずに使うとこのようになるよ、という香りに思えます。
極度なアニマリック好きのための香水だと思いますが、充分落ち着いたあとはほのかに甘さが感じられるようになります。目立たない量を目立たないところに使えば、中度のアニマリックファンでも楽しめるかもしれません。